PESOモデルを“数式”で捉える|計量経済学とAIで、成果を説明できるマーケティングへ
PESOモデルは、ペイド・アーンド・シェアード・オウンドの4つのメディアを組み合わせて情報発信を設計する考え方です。ただ、「考え方」のままでは、どの媒体がどれだけ成果に効いたのかを、数字で説明しにくいという弱点があります。本稿では、計量経済学とAIでこの弱点を補えないか、という構想を紹介します。
1. 問題意識:PESOは「考え方」で、成果を数字で説明しにくい
広告(ペイド)は、費用と成果を追いやすい媒体です。一方、報道や口コミ(アーンド)、SNS(シェアード)、自社サイト(オウンド)がどれだけ貢献したのかは見えにくく、広告費ばかりに目が向きがちです。経営者が知りたいのは、「次の1円と1時間を、どこに使うべきか」です。
2. すでにある手法:マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)
MMMは、統計モデルを使って、施策と売上の関係を推定する手法です。時間に関する考え方を、2つ取り入れています。
- 効果は、時間をかけて積み上がり、遅れて現れる(アドストック)
- 投入を増やすほど、効きが鈍くなる(飽和)
近年は、不確かさも含めて推定するベイズ推定や、実験で結果を校正する方法が広がっています。代表的なツールに、Metaの「Robyn」、Googleの「Meridian」、オープンソースの「PyMC-Marketing」があります。
3. 構想:PESOを「時間の関数」で捉える
構想の核心は、PESOの4媒体を、時間とともに変わる関数として、1つのモデルにまとめることです。言葉で書くと、次のように単純です。
成果(t) = 基礎の需要(t) + 4媒体の効果(t) + 季節・外部要因 + 誤差
- 媒体の効果は、遅れて現れ、投入量に応じて頭打ちになる
- 効果の大きさは固定ではなく、時間とともに変わる(状態空間モデル、時変係数)
- 4媒体は互いに影響し合う。たとえば、広告が話題になり、SNSで共有され、自社サイトへの訪問につながる
既存の手法でいえば、MMM、ベイズ状態空間モデル、時変係数、動的一般化線形モデルなどの組み合わせが近い考え方です。本稿では、この構想を仮に「動学的一般化モデル」と呼んでいます。
4. AIの役割
AIは、モデルの代わりに判断するものではなく、モデルを実務で使えるようにする補助役です。
- バラバラのデータを整理して、1つの表にまとめる
- 報道や口コミなどの文章を、数字(件数、好意的な反応の割合など)に変える
- 予算や施策を変えたときの結果を試算する(シナリオ)
- 結果を、経営者に分かる言葉で説明する
5. 限界と注意
- 相関と因果:広告を出した月に売上が増えただけでは、広告の効果とは言い切れません。小さな実験で確かめる必要があります。
- データ量:時間で変わる効果は、観測数が少ないと確実に捉えにくくなります。期間を長くとる、集計を粗くする、事前の知識を加えるなどの工夫が必要です。
- 数値化の難しさ:アーンドとシェアードは、掲載件数、言及数、好意的な反応の割合などの代理指標で数値化します。
- モデルは仮説:作って終わりではなく、定期的に見直します。
6. 実務への落とし込み:5つの段階
- 1. データの棚卸し:売上、広告費、SNS、サイト、報道などの記録を集める
- 2. 基本モデルの作成:遅れと飽和を入れた、シンプルなMMMから始める
- 3. 小さな実験で検証:地域や期間を分けた実験で、効果を確かめる
- 4. 時間変化と相互作用の追加:4媒体が影響し合う関係を加える
- 5. 運用:定期的に更新し、予算配分の判断に使う
合同会社HATAの取り組み(構想として)
合同会社HATAでは、この構想を研究テーマとして位置づけ、PESOモデルに基づくメディア戦略に、計量経済学の考え方を取り入れる方法を検討しています。詳しくはメディア戦略のページをご覧ください。
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秦 智紀 / 合同会社HATA